サイン伝達してしまう理由、高校野球の心理

甲子園で勝つことを究極の目標にした勝利至上主義が、子供たちへの間違った指導法を招き、たくさんの有望選手が将来の道を断たれている

著者:筒香嘉智 「空に向かってかっ飛ばせ!」冒頭より引用

 

 

センバツ高校野球でのサイン伝達問題。

監督から選手にサイン伝達が指示されていたという疑惑。

 

高校野球でサイン盗みは禁止 98年から指導要綱に - 高校野球 : 日刊スポーツ

 

高野連のルールに載っている以上は、ルール違反として咎められるべき事実であり、

高野連には今後の野球界への発展も含めて、建設的な議論を願うばかりです。

 

 

ただ指導者ばかり責めていても

何も始まらないので、

なぜ指導者がサイン伝達を指示するのかを

包括的に考えてみます。

 

勝利至上主義の弊害の一つは、野球が子供たちのためではなく、指導者の実績や功績、関係者や大人たちの満足のためのものになってしまいがちな点です。著者:筒香嘉智 「空に向かってかっ飛ばせ!」P132より引用

 

過度な勝利を求めることが

指導を歪めてるんです。

 

甲子園に出てくるような高校の指導者が抱えている諸問題

  • 自分が勝ちたい
  • 選手に勝たせたい
  • 子供に良い思い出を作ってあげたい
  • 監督としての肩書きをつけたい
  • 負けたらクビの覚悟がある
  • 学校からの期待
  • 広告宣伝として使われる高校野球
  • 選手からのプレッシャー*1
  • 選手の出身チームからのプレッシャー*2
  • 選手の進学先へのプレッシャー*3
  • 保護者からのプレッシャー*4
  • 他教員や他生徒からの過度な期待*5
  • マスコミ(特に地元紙)からの過度な期待
  • 地元スポーツ店からの過度な期待
  • 監督自身の家族からのプレッシャー*6

 

指導者が勝ちを追い求められるのは、周囲の影響もあるんです。

だからこそ、筒香選手の言葉を肝に命じておきましょう。

 

しかし、成長過程の子供たちに、「勝つこと」はそれほど重要でしょうか。

著者:筒香嘉智 「空に向かってかっ飛ばせ!」P132より引用

 

もちろん僕も「勝つこと」「勝ちを目指すこと」がダメだと言っているわけではありません。スポーツである以上、勝つのが目的ですし、プロなら当たり前のことです。

著者:筒香嘉智 「空に向かってかっ飛ばせ!」P132より引用

 

勝つことをゴールにしても良いのだが、

行き過ぎないように抑えることが

監督には求められる。

本当に色々な距離感が難しい、

それが高校野球の監督業なんです。

 

行き過ぎる指導の原因として、

さらに筒香選手は続けます。

 

 少年野球や高校野球、大学野球を含めた子供たちの野球は、3年から4年のスパンで選手がどんどん入れ替わります。そのためチームの実績は実際にプレーした選手たちではなく、チームと指導者の功績として評価されることになるわけです。

著者:筒香嘉智 「空に向かってかっ飛ばせ!」P132より引用

 

実績 = チーム > 監督 > 選手

という図式が学生野球の悪いところ。

 

選手よりも先に監督の功績が讃えられる事実。

これがダメなんです。

 

周囲も監督を持ち上げる。

 

そうして実績を残した監督は周囲から高い評価を受け、発言力も強くなります。その評判を聞いて選手も集まるようになっていき、チームは活況を呈するようになる。

著者:筒香嘉智 「空に向かってかっ飛ばせ!」P132より引用

 

さらに筒香選手は続けます。

 

すると中には、チームの評判や自分の名声を守るために、とにかく勝つこと、勝って実績を残すばかりに躍起になってしまう指導者が出てきても不思議ではありません。

著者:筒香嘉智 「空に向かってかっ飛ばせ!」P132より引用

 

過度な勝利至上主義が、指導者の行き過ぎた

行為にも繋がっています。

 

例えば体罰が良い例でしょう。 

選手に対して過度な圧力を与えてしまった結果です。

死者や自殺者も出る最悪のケースもありしたよね。

  

教員としての監督業務

そもそも高校野球の監督の職業は何でしょうか?

それはほぼ100%が教員なんですよね。*7

学校の環境はいまどんな状況なのでしょうか?

普通の教師が抱えている問題も見る必要があります。

 

写真を見てください。

「あなたは悩みを相談できる相手はいますか?」という質問に対して

悲しいデータが出てます。

 

f:id:nozasho1215:20190330101349j:image

 

そうなんです、50%が悩みを言えてない…

 

 

教師は一般企業の労働者と比べると、「仕事や職業生活におけるストレスを相談できる相手」がいる人の割合が、約半分です。

一般企業の労働者の九割近くが「相談相手がいる」と考えたのに対し、教師のうち「相談できる相手がいる」と答えたのは、半数にも満たないのです。

著者:諸富祥彦 「教師の資質」P76より引用

 

 

教員っていうのは同僚や上司に相談できない環境で

働いているんです。

 

さらに「同僚や上司に相談できているか?」という質問に対して

 

一般企業で約60%

 

教師はたったの14%

 

要するに高校野球の監督業っていうのは

 孤独中の孤独なんです。

 

会社経営者と似たような立場ですね。

 

本来、指導者は

褒められる立場ではないのか?

 

ここまで考えてみると、高校野球の監督って

もっと尊敬されなければならない人たちなんです。

  • これまで家族を捨てて、土日をすべて部活動に費やして来た
  • 自分の子供よりも他人の子供を優先している
  • 愛する子供の入学式や運動会もいけない立場
  • 1日2,000円-3,000円しか出ない休日部活動手当
  • 指導者(監督)になるまでの下積みがあった
  • コーチや部長時代での葛藤「俺ならこうするのに!」

   といった苦悩の日々を乗り越えて来た。

  • やっと勝ち取った監督のポジション

   「絶対に譲りたくない!!」って

   気持ちありますよね。

 

プロ野球選手がレギュラーを守るために

必死に結果を出すのと同じくらいの戦いを

高校野球の監督はしているんです。

今年の中日・京田選手と同じ気持ちですね。

news.nifty.com

 

 

  • 監督業を譲る時=クビ*8
  • 結果を出せなければ保護者やOBからのクレーム
  • 結果が出なければ、理事長からの事実上クビ宣言
  • クビの後に待っているのは他の部活動への異動?
  • あるいはまたコーチや部長の下積み生活
  • B戦の監督をしたり、ホームゲームでは弁当の手配、お茶出しなど*9

 

監督のリスクって色々あるんですよね

 

そもそも指導者を目指した目的って?

・選手時代に自分は指導者に向いていると思った、

 あるいは恩師や家族や友達にアドバイスされた

・選手時代に受けた指導が素晴らしかった、あるいは指導がクソだった

・人に教える力が他の人よりも優れていると自覚した

・生徒に良い情報を与えられると思った(技術的指導や人間的指導)

・野球を通して人間的な指導をしたいと思った

・人としてどうあるべきかを伝えたかった

・高校生を立派な大人として育てたかった

・ 努力することの大切さや互いに励まし合うこと、

・グラウンド整備をすることで人に奉仕することを学ぶ

・練習試合の相手への感謝、リスペクト

 

もう一度思い出しましょう!なぜ指導者になりたかったのか!

 

文科省が定める

運動部活動の位置づけとは

運動部活動は、学校教育活動の一環として行われており、…(略)…より高い水準の技能や記録に挑戦する中で、スポーツの楽しさや喜びを味わい、豊かな学校生活を経験する活動である。著者:友添秀則 「運動部活動の理論と実践」P209より引用

 

高い技能でのぶつかり合いが甲子園の醍醐味!

奥川くんみたいなドラ1と闘える楽しみが甲子園の

良さでしょう!

 

そして習志野の日本一の応援を同時に聞けるという

スタジアムの味わい!

 

運動部活動は、生涯にわたってスポーツに親しむ能力や態度を育て、体力の向上や健康の増進を図るだけでなく、…(略)…

著者:友添秀則 「運動部活動の理論と実践」P209より引用

 

生涯にわたってスポーツを楽しむための

技能やマナーを教えるのも部活動の意義なんです。

 

だからサイン伝達や、ルール違反を

教師が許容したらだめです。

 

・バレなければなんでもOKという考えを捨てよう!

・かっこよく試合をすべき!

・マナー良く試合をしよう!

・負けても勝っても称え合う!

・ファンはこの当たり前の姿を賞賛すべき!

・指導者、マスコミ、選手、観客、みんながマナーや節度を持って試合に臨む!

・甲子園出場だけに焦点を当てない!

・失敗を許容できる環境づくり!

 (今回の監督さんも素直に認めて謝罪して、次のステップに進もう)

 

 

子供とかかわる

すべての大人に必要な資質とは

…(略)…人類全体のことを考え、日本全体のことを考えている。自分たちの世代のことだけではなくて、後々の世代のことまで考えている。そう、子どもは理解するでしょう。そんな姿を子どもに見せることが、最高の教育になります。著者:諸富祥彦 「教師の資質」P228より引用

 

ボブもそうやし、野球に関わってるみんな、本来は同じ思い!

 

それは野球が好き!ってこと!

 

僕たちが死んでも、次の世代が野球を楽しめる世界を

作りましょうよ!

 

 

 タイトルは過激だけど、愛のあるフリーライターの氏原氏

夏の甲子園予選の地方の開会式に行くと、気持ちが高揚する。最後の舞台を前にした選手や指導者は、とてもいい表情をしている。高校野球は素晴らしいし、甲子園は目指す価値のある舞台だ。だからこそ、時に有望な選手たちを潰す場とするのではなく、もっともっと高校球児たちのためになる舞台となって欲しいと心から願っている。

著者:氏原英明 「甲子園という病」P188より引用

 

 

 

*1:レギュラーメンバーからはサインなどの采配について問われ、補欠メンバーからは何故俺が出ないんだ?と問われ、スタンドいるメンバーからはもっと俺を見てくれと思われてるのが現実

*2:なぜウチから送った選手が使われてないのか?といったクレーム

*3:甲子園の結果で、行ける大学が決まってくる。事実上、これも学校の広告宣伝の一つ。

*4:高い学費、寮費を支払っているので、甲子園に出て欲しい

*5:学校で歩けばみんなに声を掛けられる。嬉しい反面、プレッシャー。

*6:「勝てよ」「家の手伝いしてないくせに」とか思われている指導者が多いのも事実。

*7:ただし平安の原田監督や早稲田実業の和泉監督は教師ではない。

*8:監督にとって人生が終わるくらいなのかもしれませんよね。

*9:要するに監督さんの雑務